196回通常国会(平成30年1月22日から6月20日までの150日間)で成立を目指しているのが、「働き方改革関連法案」です。

 

この法案の目玉のひとつが、「特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)」です。略して「高プロ」といわれています。

 

成果型労働制となっていますので、労働時間ではなく成果に対して賃金を払うものであるし、年収要件が1,000万円以上となっていますからさほど問題ないかと思ってしまいます。ですが、ネットニュースやブログでは、「労働者にとってとても危険な法案」であるというのも散見します。

 

すでに国会では審議されまもなく強行採決されそうですが、まだ内容もよくわかっていないサラリーマンの方(わたし自身も含め)も大勢いらっしゃると思います。そこで実際にどんな内容でなぜ危険といわれているのか、そしてどのような影響があるのか調べてみました。
※ 当記事は、家計や保険のこととは関係ありませんが、労働は家計の収入に大きな影響を及ぼすため取り上げています。

 

参考サイト
厚生労働省「働き方改革」
高プロ制度の解説をします

 

2018/07/06 13:17:06

高プロとは、高度プロフェッショナル制度(特定高度専門業務・成果型労働制)の略ですが、具体的にはどのような制度なのでしょうか。

 

そもそも労働者側(労働組合)が高プロの法律を作ってほしいと政府に要望したものではありませんから使用者側が望んでいる法律だとわかります。

 

 

ということは、労働者にとって思わしくないものだと推測ができるわけです。

 

のっけから調べてみたことを結論から申しますと、高プロとは「年収が高い専門職を労働時間規制から外す労働者にとってはよろしくない制度」でした。

 

わたしたちは、原則として、1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはいけないことを労働基準法にうたわれていることを知っています。

 

それ以上の労働は、時間外労働協定(36協定)の締結によって認められています。
当然これを超えて働いた分は割増賃金が支払われるのですが、高プロでは、いくら残業をしても、休日出勤しても、深夜勤務をしても残業代も割増賃金の受取もできなくなります。

 

しかも後述していますが、年間104日の休みを与えれば1日に8時間、1週間に40時間の労働基準法は除外されますので、残業代を支払うことなく1週間に200時間の労働をさせても問題はないようです。

 

中には、キャリアを積むために収入が減っても労働時間に関係なくたくさん働きたいという人もいるでしょう。そういう人はいいですが、それ以外の人にとってはとても歓迎できる改革とは言い難いものでしょう。

 

とまぁ、ざっくり言うとこういった法案ですが詳細を見てみましょう。

 

高プロの法案概要

厚生労働省の法案概要には、高プロについて次のように書かれています。

 

職務の範囲が明確で一定の年収(少なくとも1,000万円以上)を有する労働者が、高度の専門的知識を必要とする等の業務に従事する場合に、年間104日の休日を確実に取得させること等の健康確保措置を講じること、本人の同意や委員会の決議等を要件として、労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする。

 

このようになっていますが、どうもお役人の書いた文章はわかりにくいのでポイントごとに分けてみました。

 

一定の年収(少なくとも1,000万円以上)を有する労働者
高度の専門的知識を必要とする等の業務に従事する人
年間104日の休日を確実に取得させること
本人の同意や委員会の決議等がいる
労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする

 

となります。

 

ポイント1から順に詳しく見てみましょう。

 

一定の年収(少なくとも1,000万円以上)を有する労働者

高プロに当てはまる方の年収は、少なくとも1,000万円以上となってはいますが、平成30年4月6日提出法案には、

 

労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額を一年間当たりの賃金の額に換算した額が基準年間平均給与額(厚生労働省において作成する毎月勤労統計における毎月きまって支給する給与の額を基礎として厚生労働省令で定めるところにより算定した労働者一人当たりの給与の平均額をいう。)の三倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること

 

と書かれています。法律に親しんでいない者にとっては解釈が難しいですね。もっと誰でもわかるように簡単にしてくれというのが本音です。

 

基準年間平均給与額とは?

上にも出ていますが、基準年間平均給与額とは、厚生労働省において作成する毎月勤労統計における毎月きまって支給する給与の額を基礎として厚生労働省令で定めるところにより算定した労働者一人当たりの給与の平均額をいう。

 

ますますわかりませんね。

 

基準年間平均給与額とは、厚生労働省において作成する毎月勤労統計における毎月きまって支給する給与の額とだけにすればいいものを、それを「基礎とする」としているからです。

 

疑問なのは、どうしてわざわざそこにプラスして「厚生労働省令で定めるところにより算定した労働者一人当たりの給与の平均額」としているのでしょうかね。たぶん省令という部分がみそかと思います。省令とはその省の中だけで決めることができるということですから・・・。

 

これらから考えられる問題点としては、現段階では1,000万円以上の見込みであっても、この先も1,000万円以上の人だけが対象であるとは限りません。徐々に引き下げられる可能性もありますから自分には関係ないとは現段階でのことであると考えたほうがいいかもしれません。

 

国会において野党が1,000万円の年収について質問していますが、「見直す考えはない(厚生労働相)」と回答しています。

 

ですが、以前経団連はたしか年収400万円(残業代込み)くらいからとの発言がありましたので、答弁どおりに受けるのはマヌケでしょう。

 

ところで、1,000万円以上の収入のある人はどのくらいいるのでしょうか。調べてみました。

 

・1000~1500万 3.1%(151万9千人)

・1500~2000万 0.7%(33万6千人)
・2000~2500万 0.2%(10万7千人)
・2500万~    0.2%(12万人)
※給与所得者数4869万人

 

年収1000万以上の人数を合算すると208万2千人となり、給与所得者全体の約4.2%になります。マナラボ国税庁 平成28年分民間給与実態統計調査結果について

 

これを見ると、対象者は4.2%とわずかですが、管理職の人はそもそも残業代などないのですから、除く必要があります。ですのでさらに率は低くなりますが、そのためだけに法律を制定するとは考えられません。

 

やはり狙いとしては、とりあえず法案を通して、省令なのでゆくゆくは年収要件を下げ、対象職種も拡大していくものと思われます。

 

高度の専門的知識を必要とする等の業務に従事する人

高プロに当てはまる人は、年収要件だけでなく、高度の専門的知識を必要とする等の業務とされています。これらはどのような業務をいうのでしょうか。

 

①金融商品の開発業務、ディーリング業務
②アナリストの業務(企業・市場などの高度な分析業務)
③コンサルタントの業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案または助言の業務)
④研究開発業務

 

などとうたわれていますが、これらの業務に限るとはされていません。厚生労働省が省令で定める仕事となっていますので、こちらもいずれ拡大される懸念があります。

 

ちなみに労働基準法第 14 条における「専門的知識等を有する労働者」とは、次の人です。
これをそのまま適用するのかわかりませんが、かなり幅広いです。

 

例えば、機械、電気、土木若しくは建築に関する科学技術に関する専門的応用能力を必要とする事項についての計画、設計、分析、試験若しくは評価の業務に就こうとする者やシステムエンジニアの業務に五年以上従事した経験を有するものもあります。これらの職種の人もいずれは該当してくるかと思われます。

 

一 博士の学位(外国において授与されたこれに該当する学位を含む。)を有する者
二 次に掲げるいずれかの資格を有する者
イ 公認会計士
ロ 医師
ハ 歯科医師
ニ 獣医師
ホ 弁護士
ヘ 一級建築士
ト 税理士
チ 薬剤師
リ 社会保険労務士
ヌ 不動産鑑定士
ル 技術士
ヲ 弁理士
三 情報処理の促進に関する法律(昭和四十五年法律第九十号)第七条に規定する情報処理技術者試験の区分のうちシステムアナリスト試験に合格した者又はアクチュアリーに関する資格試験(保険業法(平成七年法律第百五号)
第百二十二条の二第二項の規定により指定された法人が行う保険数理及び年金数理に関する試験をいう。)に合格した者
四 特許法(昭和三十四年法律第百二十一号)第二条第二項に規定する特許発明の発明者、意匠法(昭和三十四年法律第百二十五号)第二条第二項に規定する登録意匠を創作した者又は種苗法(平成十年法律第八十三号)第二十条第一項に規定する登録品種を育成した者
五 次のいずれかに該当する者であって、労働契約の期間中に支払われることが確実に見込まれる賃金の額を一年当たりの額に換算した額が千七十五万円を下回らないもの
イ 農林水産業若しくは鉱工業の科学技術(人文科学のみに係るものを除く。以下同じ。)若しくは機械、電気、土木若しくは建築に関する科学技術に関する専門的応用能力を必要とする事項についての計画、設計、分析、試験若しくは評価の業務に就こうとする者、情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう。ロにおいて同じ。)の分析若しくは設計の業務(ロにおいて「システムエンジニアの業務」という。)に就こうとする者又は衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務に就こうとする者であって、次のいずれかに該当するもの
(1) 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)による大学(短期大学を除く。)において就こうとする業務に関する学科を修めて卒業した者(昭和二十八年文部省告示第五号に規定する者であって、就こうとする業務に関する学科を修めた者を含む。)であって、就こうとする業務に五年以上従事した経験を有するもの
(2) 学校教育法による短期大学又は高等専門学校において就こうとする業務に関する学科を修めて卒業した者であって、就こうとする業務に六年以上従事した経験を有するもの
(3) 学校教育法による高等学校において就こうとする業務に関する学科を修めて卒業した者であって、就こうとする業務に七年以上従事した経験を有するもの
ロ 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務に就こうとする者であって、システムエンジニアの業務に五年以上従事した経験を有するもの
六 国、地方公共団体、一般社団法人又は一般財団法人その他これらに準ずるものによりその有する知識、技術又は経験が優れたものであると認定されている者(前各号に掲げる者に準ずる者として厚生労働省労働基準局長が認める者に限る。)

年間104日の休日を確実に取得させること

年間104日ですから、ひと月あたり約8.7日です。ひと月を4週間とすれば週2日というところです。
これって普通ですよね・・。

 

提出法案には、年間104日の休日だけでなく、なおかつ4週間を通じて4日以上の休日が必要ともなっています。

対象業務に従事する対象労働者に対し、一年間を通じ百四日以上、かつ、四週間を通じ四日以上の休日を1の決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が与えること。

 

祝日やお盆、正月など関係なく104日ですから、特別休日が多くなるものでもありません。

 

これに関連して健康確保措置が導入されていますが、

 

  1. 勤務間インターバル制度と深夜労働の回数制限制度の導入
  2. 労働時間を1ヵ月又は3ヵ月の期間で一定時間内とする
  3. 1年に1回以上継続した2週間の休日を与える
  4. 時間外労働が80時間を超えたら健康診断を実施する

「高プロ制度の解説をします」より引用

 

この4つのうち、企業側としては選択性ですのでどれかひとつを選べばいいのです。たぶん4番を選ぶ企業が多いと思います。健康診断の費用は企業負担なのか、それとも本人負担なのかは現段階ではわかりません。もしも折半なんてなったら、健康診断を受ける人は減るでしょうね。それで何か問題が起きたら健康診断を受けないほうが悪いと言われてしまうのでしょう。

 

勤務間インターバルとは
事業主は、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保に努めなければならないこと。詳しくは、BizHintのサイトに出ています。

 

 

 

本人の同意や委員会の決議等がいる

高プロ適用するためには、本人の同意が必要です。
委員会とは、「労使委員会」をいいます。この委員会を設置し、委員の5分の4以上の多数による決議が必要となります。委員の選択にもよりますが、企業寄りならば5分の4でも可決されるでしょう。

 

労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする

高プロの問題は、前述もしましたが、労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定の適用除外です。

 

それゆえ、働かせ放題の法律といわれているのです。

 

最後に国会の質問書と回答をひとつだけ掲載します。

 

高度プロフェッショナル制度では、八時間の法定労働時間の労働を月二十一日間行うとともに、過労死ラインとされる時間外労働月百時間の二倍に相当する二百時間の労働をあわせて行う、月三百六十八時間の労働は合法ですか。

答弁書には、これに対しての回答はありませんので、たぶん合法なのでしょう。

 

他にもたくさん質問がされていますが、まともな回答はありません。
詳しくは、こちらの高度プロフェッショナル制度で認められる働き方等に関する質問主意書をご覧ください。

「特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)」を略したのが、高プロです。

 

高プロとは「年収が高い専門職を労働時間規制から外す労働者にとってはよろしくない制度」です。

 

主なポイントとしては、次の5つです。

 

一定の年収(少なくとも1,000万円以上)を有する労働者
高度の専門的知識を必要とする等の業務に従事する人
年間104日の休日を確実に取得させること
本人の同意や委員会の決議等がいる
労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする

 

高プロの労働者のメリットを探してみましたが、見つけることができませんでした。メリットがあるのは、やはり使用者側のようです。

 

以上、「高プロ(「特定高度専門業務・成果型労働制」)は危ないのか」でした。