逸失利益と言っても、2つの種類があります。ひとつは後遺障害逸失利益。もうひとつは、死亡逸失利益です。これらについて解説しています。
2015/05/30 21:21:30
逸失利益とは
逸失利益は、「いっしつりえき」と読みます。
では、逸失利益とはどういうものでしょうか。
逸失利益とは、後遺障害を負ったこと、または死亡したことにより、事故前に想定される労働ができなくなったために失われる利益のことを言います。
逸失利益の支払いとは、この失われた利益を損害賠償金として支払うことをいいます。
冒頭でも申し上げましたが、逸失利益には、後遺障害逸失利益と、死亡逸失利益の二つがあります。
尚、逸失利益には自賠責保険の基準と任意保険の算定基準、弁護士の算定基準があり、それぞれで違っています。
一番高く保険金が支払われるのが弁護士基準になります。そのため、勝訴した場合には裁判判例にもあるように、かなり賠償額が大きく違ってくるということになります。
後遺障害逸失利益の計算方法
後遺障害逸失利益は、1年あたりの基礎収入×労働能力喪失率×就労可能年数に対するライプニッツ係数で計算されます。
後遺障害逸失利益 = 1年あたりの基礎収入 × 労働能力喪失率 × 就労可能年数に対するライプニッツ係数
後遺障害逸失利益の計算例
年収が500万円で症状固定時の年齢が30歳、後遺障害等級を第8級、喪失期間は、67歳までとすると、労働能力喪失率は45%、就労可能年数に対するライプニッツ係数は16.711になります。その結果、500万円×0.45×16.711=37,599,750円となります。
労働能力喪失率については以下に説明しています。
就労可能年数とライプニッツ係数の表(外部ページ)はこちら
自賠責保険の基礎収入とは
自賠責保険の基礎収入は有職者にあっては、交通事故前1年間の収入額と後遺障害確定時の年齢に対応する年齢別平均給与額の年相当額のいずれか高い額になりますが、以下の者については、それぞれ掲げる額を収入とします。
1 | 35歳未満であって事故前1年間の収入額を立証することが可能な者 | 事故前1年間の収入額、全年齢平均給与額の年相当額及び年齢別平均給与額の年相当額のいずれか高い額 |
2 | 事故前1年間の収入額を立証することが困難な者 | (a)35歳未満の者 全年齢平均給与額の年相当額又は年齢別平均給与額の年相当額のいずれか高い額。 (b)35歳以上の者 年齢別平均給与額の年相当額 |
3 | 退職後1年を経過していない失業者(定年退職者等を除く。) | 以上の基準を準用する。「事故前1年間の収入額」とあるのは、「退職前1年間の収入額」と読み替えます。 |
4 | 幼児・児童・生徒・学生・家事従事者 | 全年齢平均給与額の年相当額。ただし、58歳以上の者で年齢別平均給与額が全年齢平均給与額を下回る場合は、年齢別平均給与額の年相当額 |
5 | その他働く意思と能力を有する者 | 年齢別平均給与額の年相当額。ただし、全年齢平均給与額の年相当額が上限 |
※全年齢平均給与額と年令別平均給与額は異なります。
別表Ⅲ:全年齢平均給与額 男子 415,400円 女子 275,100円
年令 | 男子 | 女子 | 年令 | 男子 | 女子 |
歳 | 円 | 円 | 歳 | 円 | 円 |
18 | 187,400 | 169,600 | 44 | 482,000 | 298,800 |
19 | 199,800 | 175,800 | 45 | 485,600 | 296,500 |
20 | 219,800 | 193,800 | 46 | 489,300 | 294,300 |
21 | 239,800 | 211,900 | 47 | 492,900 | 292,000 |
22 | 259,800 | 230,000 | 48 | 495,500 | 291,800 |
23 | 272,800 | 238,700 | 49 | 498,100 | 291,700 |
24 | 285,900 | 247,400 | 50 | 500,700 | 291,600 |
25 | 298,900 | 256,000 | 51 | 503,300 | 291,400 |
26 | 312,000 | 264,700 | 52 | 505,800 | 291,300 |
27 | 325,000 | 273,400 | 53 | 500,700 | 288,500 |
28 | 337,300 | 278,800 | 54 | 495,500 | 285,600 |
29 | 349,600 | 284,100 | 55 | 490,300 | 282,800 |
30 | 361,800 | 289,400 | 56 | 485,200 | 280,000 |
31 | 374,100 | 294,700 | 57 | 480,000 | 277,200 |
32 | 386,400 | 300,100 | 58 | 455,400 | 269,000 |
33 | 398,000 | 301,900 | 59 | 430,900 | 260,900 |
34 | 409,600 | 303,700 | 60 | 406,300 | 252,700 |
35 | 421,300 | 305,500 | 61 | 381,700 | 244,500 |
36 | 432,900 | 307,300 | 62 | 357,200 | 236,400 |
37 | 444,500 | 309,100 | 63 | 350,100 | 236,400 |
38 | 450,500 | 307,900 | 64 | 343,000 | 236,400 |
39 | 456,600 | 306,800 | 65 | 336,000 | 236,500 |
40 | 462,600 | 305,600 | 66 | 328,900 | 236,500 |
41 | 468,600 | 304,500 | 67 | 321,800 | 236,500 |
42 | 474,700 | 303,300 | 68~ | 314,800 | 236,600 |
43 | 478,300 | 301,000 | - | - | - |
上の表は、平成12年賃金センサス第1巻第1表産業計(民・公営計)によりもとめた企業規模10~999人・学歴計の年齢階層別平均給与額(含臨時給与)をその後の賃金動向を反映して0.999倍したものです。
労働能力喪失率とは
労働能力喪失率は、原則、後遺障害別等級表の労働能力喪失率に従って決められます。
別表Ⅰ
等級 | 保険金限度額 | 労働能力喪失率(%) |
第1級 | 3,000万円 | 100 |
第2級 | 2,590万円 | 100 |
第3級 | 2,219万円 | 100 |
第4級 | 1,889万円 | 92 |
第5級 | 1,574万円 | 79 |
第6級 | 1,296万円 | 67 |
第7級 | 1,051万円 | 56 |
第8級 | 819万円 | 45 |
第9級 | 616万円 | 35 |
第10級 | 461万円 | 27 |
第11級 | 331万円 | 20 |
第12級 | 224万円 | 14 |
第13級 | 139万円 | 9 |
第14級 | 75万円 | 5 |
ライプニッツ係数について
ライプニッツ係数とは、将来の収入を先に一時金として受取るため、将来の収入時までを年5%として複利で差し引く係数のことです。
就労可能年数とライプニッツ係数表(一部抜粋)
年齢 | 就労可能年数(年) | ライプニッツ係数 | 年齢 | 就労可能年数(年) | ライプニッツ係数 |
18 | 49 | 18.169 | 40 | 27 | 14.643 |
19 | 48 | 18.077 | 50 | 17 | 11.274 |
20 | 47 | 17.981 | 60 | 12 | 8.863 |
30 | 37 | 16.711 | 70 | 8 | 6.463 |
死亡逸失利益の計算方法
死亡の場合の逸失利益についての計算は、(年収)×(就労可能年数に対するライプニッツ係数)×(1-生活費控除率)になります。年収については、後遺障害逸失利益の収入の考え方と同じです。
死亡逸失利益 =年収×就労可能年数に対するライプニッツ係数×(1-生活費控除率)
自賠責保険の生活費控除率
生活費控除率とは、逸失利益とは反対に、被害者が生きていた場合に掛かっているであろう生活費が掛からなくなるはずなので、その分を控除するという考え方のものです。生活費控除率は、自賠責保険の基準と、任意保険会社の基準や裁判での基準とはそれぞれ異なっています。
- 被扶養者がいる場合:35パーセント
- 被扶養者がいない場合:50パーセント
死亡逸失利益の計算例
年収500万円、30歳で被扶養者がいる方が、お亡くなりになった場合の計算
500万円×16.711(就労可能なライプニッツ係数)×(1-0.35)=54,310,750円になります。
死亡逸失利益・年金生活者について
後遺障害逸失利益では、年金は収入として認められていませんが、死亡逸失利益では、以下の年金については認められています。
- 国民年金
- 老齢厚生年金
- 恩給
- 公務員の退職共済年金
遺族年金と軍人恩給については、否定されています。
以下は「平成22年金融庁・国土交通省告示第1号より引用」
年金等の受給者の死亡逸失利益については、次のそれぞれに掲げる年間収入額又は年相当額から本人の生活費を控除した額に死亡時の年齢における就労可能年数のライプニッツ係数を乗じて得られた額と、年金等から本人の生活費を控除した額に死亡時の年齢における平均余命年数のライプニッツ係数(別表Ⅱ-2)から死亡時の年齢における就労可能年数のライプニッツ係数を差し引いた係数を乗じて得られた額とを合算して得られた額とする。
ただし、生涯を通じて全年齢平均給与額の年相当額を得られる蓋然性が認められない場合は、この限りでない。
年金等の受給者とは、各種年金及び恩給制度のうち原則として受給権者本人による拠出性のある年金等を現に受給していた者とし、無拠出性の福祉年金や遺族年金は含まない。
また、年金受給者であっても以下のように分けられています。
① 有職者 | 事故前1年間の収入額と年金等の額を合算した額と、死亡時の年齢に対応する年齢別平均給与額(別表Ⅳ)の年相当額のいずれか高い額とする。ただし、35歳未満の者については、これらの比較のほか、全年齢平均給与額の年相当額とも比較して、いずれか高い額とする。 |
② 幼児・児童・生徒・学生・家事従事者 | 年金等の額と全年齢平均給与額の年相当額のいずれか高い額とする。ただし、58歳以上の者で年齢別平均給与額が全年齢平均給与額を下回る場合は、年齢別平均給与額の年相当額と年金等の額のいずれか高い額とする。 |
③ その他働く意思と能力を有する者 | 年金等の額と年齢別平均給与額の年相当額のいずれか高い額とする。ただし、年齢別平均給与額が全年齢平均給与額を上回る場合は、全年齢平均給与額の年相当額と年金等の額のいずれか高い額とする。 |
生活費の立証が困難な場合
被扶養者がいるときは年間収入額又は年相当額から35%を、被扶養者がいないときは年間収入額又は年相当額から50%を生活費として控除する。