日本のどこかしらで毎日交通事故は起きています。平成23年の警視庁発表資料によりますと、ケガをした方は年間85万人もいます。年々減少しているとはいえ、1日あたり約2,300人ですからかなりの人数です。その中には、軽症者だけでなく重傷者もいますが、どちらにしても病院で治療が必要なケースがほとんどです。
このときに健康保険や国民健康保険は使えるの?という疑問もあると思います。その回答と手続きについて解説します。
以下の交通事故は、被害者本人や家族が自動車保険の人身傷害補償保険に加入していない場合を想定して解説しています。人身傷害補償保険に加入している場合でも健康保険は使えますが、その際には自動車保険会社に連絡してください。
2016/02/10 11:53:10
国民健康保険と交通事故等の治療費について
相手は車で自分は自転車などでの交通事故の場合に国民健康保険は使えるのでしょうか?
結論から言いますと、このような交通事故でも国民健康保険を使って治療はできます。
ただし、以下の場合には国民健康保険は使用できません。
- 加害者から治療費を受け取っている場合
- 加害者側と示談をしている場合
例えば、自動車同士での事故や歩行中に自転車にぶつけられたケガ、飲食店での食中毒など第三者による行為によるものでも国民健康保険を使って治療はできます。ただしその場合には、お住いの市区町村の国民健康保険窓口へ「第三者行為による届出」を提出する必要があります。
第三者行為による届出書は、各市区町村の国民健康保険窓口にありますが、ホームページからもダウンロードできます。(ダウンロードできない市区町村もあります。)
しかしながら、自分にまったく過失がない「過失ゼロ」ですと、心情的に自分の国民健康保険を使うには抵抗があるのではないでしょうか。
それでも国民健康保険を使ったほうがメリットのあるケースもあります。
たとえば、加害者側が、任意である自動車保険には加入しておらず自賠責保険のみに加入している場合などです。
任意であっても「自動車保険」ならほとんどの方が加入しいていると思いがちですが、そうでもありません。沖縄県のように対人、対物賠償保険の加入率が52%という県もあります。詳しくはこちらの自動車保険の加入率(普及率)で低い県と高い県を教えてのページをご覧ください。
自賠責保険とは?
自賠責保険は、自動車や原動機付自転車を運行させる際には必ず加入しなければならない強制保険ですが、死亡、後遺障害、傷害(ケガ)の賠償額には限度額が設定されています。
- 死亡:3000万円
- 後遺障害:4000万円
- 傷害:120万円
上記額を超えた分は、自動車保険に加入していればそこから支払われますが、ここでの想定は自動車保険に加入していないケースですので、支払われません。
また、傷害の120万円には、治療費のみならず、入院雑費、通院交通費、休業損害、傷害慰謝料等の支払いも含まれています。
つまり言いたいことは、病院での治療費だけで120万円を超えてしまうと、他の休業損害や傷害慰謝料等は自賠責から支払ってもらえません。そのためその分は加害者に請求することになりますが、加害者側がすんなりと支払ってくれるとは限りませんから余計な労力を使うことにもなりかねません。
医療費は自由診療では全額自己負担となりますが、国民健康保険を使えば、医療費は多い人でも3割負担ですみます。その結果、自分での立替え金も少なくなりますし、医療費負担を抑えることができます。その結果、120万円まで休業損害や傷害慰謝料等も含めて受取ることができるようになります。
そこで困るのは国民健康保険(保険者)側です。
病院は、患者に請求するのが基本ですから、治療費の3割分については患者に請求、残りの7割は国民健康保険(保険者)に請求するからです。
※ 相手が自動車保険に加入していて、その保険会社が治療費の請求を認めた場合は、病院が直接保険会社に請求をしますので患者の自己負担はなくなります。
国民健康保険(保険者)の7割負担はどうなるの?
交通事故にあった際に被害者に過失がなければ、本来は事故によりかかった治療費は全額加害者が負担すべきものです。(被害者にも過失があればその割合において相殺されます。)
国民健康保険としては、一時的に立替えているに過ぎません。そのため医療費の7割分を加害者に請求することになります。
しかしながら、何の権限もなく加害者に請求できませんから、被害者から「第三者による傷病届」以外に「念書」や「誓約書」を提出してもらうことになります。
念書
年 月 日 において〇〇 の不法行為により 〇〇の被った保険事故について国民健康保険法による保険給付を受けた場合は、私が第三者に対して有する損害賠償請求権を国民健康保険法第64条第1項の規定によって保険者が給付の価額の限度において取得、行使し、かつ賠償金を受領することに異議のないことをここに書面をもって申し立てます。
第三者行為による届出に必要な書類
第三者行為による届出は、国民健康保険証の他に以下の書類を提出します。
- 三者行為による傷病届
- 念 書
- 同意書
- 見取図
- 自賠及び任意保険加入状況
- 誓約書
- 交通事故証明書
- 人身事故証明書入手不能理由書(交通事故証明書が人身事故扱いでない場合)
上記書類は、各市町村の国民健康保険課によって異なる場合がありますので各自でご確認ください。
国民健康保険と交通事故に関係する質問
他人の飼っているペットなどにかまれて受けたケガ、他人の車に同乗していて交通事故でケガをした場合、学校やスーパーなどの設備の欠陥でけがをしたとき、自転車同士での事故でけがをしたときなどがあります
医療機関としては、基本的には診療を受けた本人へ請求しますので支払うことになります。
しかし、相手が任意の自動車保険に加入している場合で、相手側保険会社から医療機関へ連絡があり、保険会社請求(任意一括払)の同意書にサインした場合には、医療機関は保険会社へ請求することになりますので支払う必要はなくなります。
相手方が任意保険に加入していない場合(自賠責保険のみ加入の場合)は、病院は保険会社へ請求できませんので、被害者は全額自己負担するか、国民健康保険を使って3割を支払うことになります。
被害者は、その支払った治療費は加害者に直接請求するか、ご自身で相手の自賠責保険へ請求をすることになります。この請求を被害者請求と言います。自賠責保険の詳細は自賠責保険とはどういう保険なのか理解されていますか?のページをご覧ください。
医療機関としては、国民健康保険を使用された場合には治療費の残り7割を国民健康保険へ請求することになります。
国民健康保険機関では、医療機関に立替えて支払った被害者の過失分を引いた医療費を加害者に請求するという流れになります。
国民健康保険と交通事故のまとめ
相手のいる交通事故でケガをしたときに国民健康保険を使って治療はできます。
ただし、第三者行為による傷病届をお住いの国民健康保険課窓口に提出する必要があります。
この届出により、国民健康保険側から加害者側に被害者の過失分を除いた分の治療費を請求ができることになります。
また、このような第三者行為によるものは、交通事故に限らず、食中毒や他人のペットに噛まれたなどが該当します。
以上、「国民健康保険で交通事故の治療。第三者行為の届出が必要ですよ」の記事でした。
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